オリガの半生


 
オリガサリエル暦 810年頃に ファンザム帝国 の二代目皇帝 イグニス の第六子(四男)として生まれる。
当時のベルティナ家は「《神》降ろしの血」を求めた国々から多くの皇妃を迎えており、母親の違う兄が3人、弟が2人、姉が2人居た。そのうち帝位継承権争いなどの政治的な対立で、兄1人と弟2人が 準成人 を迎える前に亡くなっている。
オリガ自身も何度も命を狙われていたが、8歳で ベルティナ家 の「《神》の依り代」としての印が現れたため、三代目皇帝となるべく厳しい教育を受けて育てられた。
幼少期から自身の意思とは無関係に「神と思われる何らかの意識」と交感することが多く、月を恐れ、特に満月の夜は イリザイト の積まれた地下室に籠って外部からの魔力干渉を遮断して過ごしていた。
 
10歳になると、 魔力 を持たない ベルティナ家 の血に芽吹き始めた「魔力持ち」の子として、 グラフィエル王国魔術師協会 で魔術全般を学ぶ。(オリガの魔術師としての階級は「 中位魔術師 (ギルダ)」に留まっている。)
グラフィエル王国の現王 サナトス (当時は王子)とは学友で、やがて親友となる。
 
以降も次期帝位を狙う様々な派閥から命を狙われることが続き、帝都での生活は要らぬ争いを生むと判断したオリガは、成人(17歳)になってから帝位に就く20歳までの間はほとんど帝都に留まることはなく、信頼できる私兵数名のみを率いて 西の大陸 の各地を視察・遍歴と称して転々としていた。
その道中で キシュルラタル と出会うことになる。
 
やがて帝都では疫病が蔓延し、兄と姉は病死。(姉のうち1人は ヘカドス王国 に嫁いでいたため無事だった)
ほどなくして先帝が崩御したため帝位に就く。
その際、疫病の浄化に貢献した 《光の紋章》 の宿主であるキシュルを妃として迎える。
 
皇帝としてのオリガは、神の名のもとに戦争による領土拡大と粛清とを繰り返して急速に国力を強めた初代・二代目の皇帝とは全く性質の違う、調和を重んじる皇帝として期待されていた。
しかし、息子の ティラルロザリオ が4歳の時にオリガの身に《神( パウ・ファンザム )》が降り、御すことができず憑依されてしまう。
帝都の者たちはことごとく《神》に屠られたと言われており、キシュル、ティラル、ロザリオの生死は不明(もしくは死亡)とされていた。
また、神降ろしの際に発生した異常な濃度の魔力により大規模な 魔漏 が起きたため、帝都周辺はヒト族が生息できる環境ではなくなっている。

現在、オリガのヒトとしての自我は既に消滅しており、《神》そのものとしてグラフィエル教徒の崇拝対象となっている。
四代目皇帝の候補者(ベルティナ家の家督を継ぐ「《神》の依り代 」の印が現れた者)は居ないため、ファンザム帝国の国務の一切はオリガの親友だったサナトスが代行しており、ヘカドス王国に嫁いだオリガの姉の子から「《神》の依り代 」の印を持つ者が現れることが期待されていた。
しかし、9年後に生存が確認されたティラルに次代の「《神》の依り代」の素質があることが判明し、オリガに憑依した《神》は、ティラルを次の器として生け捕るために追手をかけることとなった。
(※『MYTH』本編のお話はここから始まります)
 
 
オリガは熱心なグラフィエル教徒だったこともあり、生涯驕ることなく《神》を畏れ敬っていた。
彼が《神》の意思に逆らったのは、最期に自身の息子であるティラルとロザリオを帝都から逃がした時の、ただ一度のみである。