イニスの里の成り立ち

神話時代イニス は世界各地に分布していて、鳥と同じようにそれぞれに巣を持ち生活していた。
 
同じく世界各地に分布している との間で空の覇権を競い合っており、両種族は交戦に備えて軍事拠点を設けるなどし、強力な個体に従属する小規模の組織がいくつも存在していた。
 
また、竜に対抗できない弱い個体や幼いイニスたちは力を持ちながら竜との抗争を望まない個体の庇護下で比較的安全な場所に身を寄せ合って集団生活をしており、現在の イニスの里 の元となったのは、こういった非戦闘集落のうちの一つである。
この集落を庇護下に置いていたのが、現在《ゼファー》と呼ばれている 孔雀
孔雀の種はイニスの中でも特に魔力の高い鳥種とされており、本来は戦闘にも向いているが、幼くして向かって右上の翼に《鵠》が顕れた孔雀は、治癒魔法に長けていた。そのため後方支援に徹し、複数の里を行き来しては負傷したイニスの治療や幼いイニスが成長するまで保護する役割を担っていた。
 
 
神話時代後期に 《神》 が眠りに就いて 精霊 が急激に弱体化することで、能力の高いイニス(=存在するだけで膨大な 魔力 を消費し、その大半を大気中の精霊で補っていた個体)は外界に自身の存在をとどめておくことが出来なくなり、瞬く間に消滅してしまう。
このとき精霊の異変とその流れをいち早く察知した孔雀は、集落全体に巨大な結界を張り、自らが庇護するイニス達を守った。
 
孔雀が張った結界は、当初は正確には「結界」ではなく、里を覆う巨大な「防御魔法」を展開したものだった。
魔力や精霊のみならず、物理的な干渉すらも完全に遮断する障壁のようなもので、結界を張った時点でその外にいた同胞たちを見捨てることとなる。
孔雀は結界内に隔離したイニス達の命を守るために、中に入れてくれと助けを求める外のイニス達が消滅していく様子をただ見ている他になかった。
 
次いで、結界内のイニスの存在を維持するための精霊(エネルギー体)が枯渇する前に、自身の魔力を放出して結界内を疑似的な精霊で満たす必要があった。
孔雀以外に魔力の高いイニスがほとんど居ない当時の状況では、結界内が 疑似精霊 で満たされるまでに必要以上に時間がかかってしまい、その間に、里の中に残っていた本物の精霊を消費し切って消滅してしまったイニスや、疑似精霊の素としてその身を捧げたイニスも居た。
孔雀自身も里の環境を神話時代と同じものにするために自らの翼の機能を2枚分失い、寿命を3000年ほど削っている。これは当時700歳程度の孔雀にとってはかなり大きな損失となった。
孔雀の種の寿命は一般的には3000~4000年といわれているが、今も孔雀が問題なく生存しているのは、自身の翼のうちの一枚が 《鵠》 になっていたためである。
 
結局神話時代以降に生き残ることができたイニスは、結界の核になった孔雀本人と、それを補助する優秀な個体が数体、存在をとどめるための消費魔力が比較的少ない弱い個体(幼かったり、種として弱い個体)のみで、イニスの上位層から中間層にかけてはほとんど消滅している。
 
結界内が疑似精霊に満たされるまでにかかった時間は1年弱。
2年目からは、魔力消費が激しく術者(孔雀)が一瞬たりとも気を散らすことのできない「防御魔法」から、1年かけて組まれた複雑な術式により安定して維持することができる「結界」にシフトする。(結界を維持するための魔力源は引き続き孔雀のもの)
結界が安定するまでの数年間、孔雀は何も食べず、一睡もしなかったと言われている。
 
 
新たな生態系が作られ、里が今の環境に落ち着くまでには約200年ほどの時間がかかり、結界が張られてから800余年。いまは当時幼かったイニスたちもそれなりに成長したため、疑似精霊の生成には孔雀以外の魔力も使われるようになり、里の中の環境は安定している。